「ちゃんと説明したはずなのに、なぜか伝わっていない」
「何度話しても会話が噛み合わない相手がいる」
職場でこんな経験をしたことはありませんか?
のりさんも、長年この問題に悩んできました。
伝えたつもりが伝わっていない。もどかしくて、何度も同じ説明を繰り返す。
でもうまくいかない。
こうした「伝わらない」問題は、「話し方」や「語彙力」の問題ではないことがほとんどです。
心理学・脳科学の研究が明らかにしているのは、コミュニケーションのすれ違いの根本には「前提のズレ」があるということ。そしてそれを放置すると、知らないうちに悪化していきます。
今日は、そのメカニズムと具体的な解消法をお伝えします。
なぜ伝わらないのか──脳が引き起こす2つの落とし穴
落とし穴①:知識の呪い(Curse of Knowledge)
コミュニケーション研究の世界で有名な概念に、「知識の呪い(Curse of Knowledge)」があります。
これは、「自分が知っていることを、相手も知っているはずだ」と無意識に思い込んでしまう認知バイアスのことです。
たとえば、「この件、前回と同じ感じでやっておいて」と言われたとします。
言った側には「前回の進め方」が鮮明にイメージできています。
でも受け取った側には、「前回」が複数あって、どのやり方を指しているのかが判断できない——こういう状況は、職場で日常的に起きています。
これはどちらの能力の問題でもありません。
経験を積んだ人ほど「知識の呪い」にかかりやすく、自分の知識が邪魔をして、相手の視点に立てなくなっています。
一度「知っている状態」になると、「知らなかった頃」には戻れない。
これが脳の特性であり、経験を積むほど陥りやすい落とし穴でもあります。
落とし穴②:メンタルモデルのズレ
人はそれぞれ、過去の経験や学習をもとに「世界の捉え方の枠組み」を持っています。
これをメンタルモデルと呼びます。
同じ言葉を使っていても、話し手と聞き手のメンタルモデルが違えば、受け取る意味は全く異なります。
たとえば「迅速に対応して」という一言。
ある人には「1時間以内」を意味し、別の人には「今日中」を意味するかもしれません。
言葉は同じでも、それぞれの頭の中に浮かぶ「具体的なイメージ」が違うのです。
これは能力や意欲の問題ではなく、それぞれが積んできた経験の違いから生まれます。
だから、どれだけ丁寧に話しても、前提の枠組みが違えば伝わらないんです。

「確証バイアス」が問題をさらに悪化させる
厄介なのは、すれ違いに気づかないまま放置していると、確証バイアス(Confirmation Bias)によって状況がどんどん悪化することです。
確証バイアスとは、「自分の思い込みを裏付ける情報ばかりを集め、反証を無視してしまう」心理的傾向のことです。
「あの人はいつも話が噛み合わない」と思い始めると、その後のコミュニケーションでも「やっぱり伝わらない」という証拠ばかりを集めてしまいます。
そして相手も同じように感じ始め、お互いに「どうせ伝わらない」という諦めが生まれていく。
すれ違いは放置するほど固定化されます。
だからこそ、早い段階で「前提のズレ」に気づき、解消する習慣が重要なのです。

「前提のズレ」を解消する3つの習慣
最も効果的な方法は、自分がどう理解しているかを先に言葉にして確認することです。
これは心理学で言うメタ認知、つまり「自分の思考や理解を客観的に把握する能力」の実践です。
たとえば、こんな言い方が有効です。
- 「私は○○についてこう理解していますが、合っていますか?」
- 「△△というのは、□□のような意味でしょうか?」
- 「私はこういう前提で進めようと思っているのですが、認識は合っていますか?」
「知ったかぶりをせずに聞く」のではなく、「自分の理解を開示して確認する」というアプローチです。
相手を試したり、バカにしているような印象を与えず、自然に前提を揃えることができます。
もし認識がズレていれば、そこで修正できる。合っていれば、お互いの確認にもなる。
どちらに転んでも、コミュニケーションが前進します。
コミュニケーションのすれ違いが起きやすい職場環境には、共通した特徴があります。
それは、「わからない」「知らない」と言いにくい雰囲気です。
ハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・エドモンドソン教授は、チームのパフォーマンスを左右する最も重要な要因として「心理的安全性(Psychological Safety)」を挙げています(Edmondson, 1999)。
心理的安全性とは、「この場では、発言しても馬鹿にされない・批判されない」という安心感のことです。
Googleが5年間かけて行った社内調査「Project Aristotle」でも、最も生産性の高いチームに共通していたのは「能力の高さ」ではなく「心理的安全性の高さ」でした(Google re:Work, 2016)。
自分が発信側であれば、まず自分から「知らないこと」「わからないこと」を開示する姿勢を見せましょう。
上の立場であれば特に効果的です。
リーダーが「私もこれはよくわかっていないんだけど」と言える職場では、メンバーも安心して前提確認ができます。
前提を揃える努力をしても、そもそもの「伝え方」に問題があれば、コミュニケーションはうまくいきません。
そこで重要になるのがアサーティブコミュニケーション、つまり「自分の考えや感情を率直に、かつ相手を尊重しながら伝える」スタイルです。
アサーティブなコミュニケーターは、「言いたいことを我慢する」でも「相手を攻撃する」でもなく、「伝えるべきことを、相手が受け取りやすい形で伝える」ことができます。
この「伝え方」のスキルは、センスや性格ではなく、体系的に学べるスキルです。

まとめ|「伝わらない」は直せる
職場でコミュニケーションがうまくいかないとき、多くの人は「自分の話し方が悪い」「相手との相性が悪い」と感じます。
でも本当の原因は、多くの場合「前提のズレ」にあります。
- 知識の呪い:自分の知識が「相手も知っているはず」という思い込みを生む
- メンタルモデルのズレ:同じ言葉でも、頭の中のイメージが違う
- 確証バイアス:放置すると「どうせ伝わらない」が固定化される
解消のための3つの習慣は、どれも今日から実践できるものです。
- 「私はこう理解していますが、合っていますか?」と先に自分の前提を開示する
- 「知らない」と言いやすい環境を自分から作る
- 伝え方のスキルを体系的に身につける
「伝わらない」は、才能の問題でも相性の問題でもありません。
正しく理解して、正しく対処すれば、確実に変わります。
のりさん最後まで読んでいただき、ありがとうございました♫
PR|「伝え方」を体系的に学びたい方へ
- 「アサーティブな伝え方を身につけたい」
- 「職場でのコミュニケーションを根本から改善したい」
という方に、のりさんが注目しているのが伝え方コミュニケーション検定です。
オンラインで学べて、自分のペースで進められる検定試験です。
- 初級:職場・日常での基本的な伝え方スキルを習得
- 初中級セット:より実践的な場面への応用まで学べる
「伝わらない」を「伝わる」に変えるスキルは、どんな職場でも、どんな立場でも一生使えます。



伝えるスキルを磨くのは、ビジネスでもプライベートでも役立つはず♫
参考文献
- Edmondson, A. (1999). Psychological safety and learning behavior in work teams. Administrative Science Quarterly, 44(2), 350–383. PDF(MIT公開)
- Google re:Work. (2016). Guide: Understand team effectiveness. https://rework.withgoogle.com/guides/understanding-team-effectiveness/

