自己否定は怠けじゃなかった——脳の”省エネ装置”だった話

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「どうせ自分には無理」が、いつも先に来る

何かをやろうとするたびに、最初に動くのは体ではなく、心のブレーキでした。

新しいことを始めようとする。
やってみたいことが見つかった。
欲しいものができた。——始めはすごくワクワクする。

でも次の瞬間、別の声が割り込んでくるんです。

——「こんなこと『わたしなんか』がやっていいのかな?」

長いあいだ、心のなかに浮かんでくる声を「自分の決心が弱いからだ」と思っていました。
強い気持ちを持っていないから、根性がないから、だから動けないんだ、と。

でも最近、やるべきことを「見える化」する仕組みを自作していて、まったく違う見方に行き着きました。
自己否定は、こころの弱さではなかったんです。

大きすぎる課題の前で、脳は先に「降参」する

きっかけは、今やるべきことを一覧にして眺めていたときでした。

やることが、ぜんぶ「大きな塊」のまま並んでいました。
例えば「ブログを伸ばす」、「家計を立て直す」、「職場での人間関係を整える」——どれも、見た瞬間に重い。

そして気づいたんです。課題が大きな塊のままだと、脳はその処理の重さに耐えきれず、取りかかる前に「やっぱ無理!こんなことできるわけない!」と判定を下してしまうのだと

これは気のせいではないようです。

脳のはたらきをモデル化した研究では、ひとつの大きな問題を小さなサブゴール(中間目標)に分解すると、それを解くために必要な情報処理の量——つまり「複雑さ」そのものが実際に小さくなることが示されています(Maisto et al., 2015)。

逆に言えば、大きな塊のまま向き合うほど、脳にかかる処理コストは跳ね上がる。
研究はこの「分割して攻める」やり方を、前頭前皮質のはたらきや作業記憶の限界とも結びつけて説明しています。

つまり、「どうせ無理」という自己否定は、脳が処理コストの高さから自分を守るための、いわば省エネ装置だったわけです。

何もしないほうが、脳も体も消耗しない。
だから「どうせ自分はダメだ…。」と自己否定沼に沈むのは、ある意味とても合理的な省エネ反応だったんです。
決して気持ちの弱さからきているのではなかったのです。

課題が大きな塊のままだと脳の省エネスイッチが切れて動けなくなり、小さく分割するとスイッチが入って手が動くことを左右で対比した図解

完璧主義と「0か100か」——内なる敵が大きくなる瞬間

やっかいなのは、完璧主義との組み合わせです。

「やるなら、ちゃんとやらなきゃ」——そう思うほど、課題はますます大きく、重くなります。
0か100か、白か黒か、中間がありません。

この白黒思考は、発達特性を持つ人にとっては特に身近なものかもしれません。
「グレーのまま、ほどほどで置いておく」のがとても苦手なのです。

中間の50点を許せないから、100に届かないくらいなら最初から手をつけないほうがマシ、という結論に着地してしまう。まさに省エネ装置が、完全にONになるわけです。

自己否定が強い人にとって、いちばん手強い敵は、いつも自分自身です。

本来なら最大の理解者で応援団であるはずの自分が、何かをしようとした瞬間まっさきに足を引っ張ってくる。
その「内なる敵」が大きくなるのには、決まったタイミングがあることに気づきました。

  • ①ゴールが遠いと気づいたとき:「どうせ自分には無理」が芽生えるのは、理想の到達点まで長い時間と労力が要ると分かった瞬間です。
  • ②現在地を見失ったとき:ゴールも通過点も、霧の中に消えてしまうのは、何のために、どこを目指して進んでいたのかが分からなくなったときです。
  • ③方向をねじ曲げられたとき:やりたかったことがどんどん別物になっていくのは、周囲に意見や現実の壁に阻まれて勢いがなくなったときです。

どれも、「課題が大きすぎて、輪郭がぼやけている」ときに起こります。
裏を返せば——課題の大きさと輪郭を扱えれば、内なる敵は小さくできるということでもあります。

続かないのは、意志の弱さではありません【PR】

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処方箋①:課題を「これ以上割れない」ところまで小さくする

では、どうすればいいのか?たどり着いた答えは課題を、これ以上割れないくらい小さくするでした。

例えば「ブログを伸ばす」では脳が降参します。でも「次の一歩:記事のタイトルを1案だけ書く」までかみ砕くと、脳は「それくらいなら、やれる」と判断してくれる。先ほどの研究が示すとおり、サブゴールに割るほど処理の複雑さは下がるからです。省エネ装置が起動する前に、手が動いてしまう状態をつくる。これが狙いです。

大きな山を見上げると足がすくむけれど、「次の一段だけ上がる」なら登れる。課題を小さく割るのは、それと同じことです。

コツは、「もう割れない」と感じたら、そこからもう一段だけ割ってみること。「タイトルを書く」ではまだ大きい。「タイトルの案を、質を問わず1行だけメモする」まで落とす。バカバカしいくらい小さくていい。動き出してしまえば、こっちのものです。

処方箋②:小さな前進を「目に見える形」で残す

もうひとつが、進んだ分を目に見える形で残すことです。自己否定が強い人ほど、「やってもどうせ意味がない」と感じやすい。だから、小さな前進が消えていかないように、見えるところに積み上げていく。

これは、気休めではありません。138件の実験(参加者およそ2万人)をまとめたメタ分析では、自分の進み具合をこまめにモニタリングするだけで、目標の達成率が確かに上がることが示されています。しかもその効果は、進捗を「物理的に記録したとき」や「誰かに見える形で報告したとき」に、さらに大きくなるHarkin et al., 2016)。頭の中で「ちょっと進んだかな」と思うだけでは弱い。紙でも画面でも、外に出して残すことに意味があるわけです。

頭の中だけの前進は消えてしまうが、進んだ証拠を外に書き出して積み上げると目標の達成度が上がることを左右で対比した図解

大事なのは、「楽しい」と感じられること。楽しいと感じている時点で、省エネ装置は起動していません。課題が「重い塊」から「次の一手を選ぶゲーム」に変わると、脳が降参する前に自然と手が動き出すのです。

「意志が弱い」のではなく、「意志に頼る設計」が間違っていた

意志が弱いんじゃない。意志に頼る設計が、そもそも間違っている。

気合いや根性で脳の省エネ装置をねじ伏せようとすると、消耗して、また「やっぱり自分はダメだ」に逆戻りします。そうではなく、意志ではなく仕組みのほうを変える。課題を小さく割る仕組み、進んだ分が見える仕組み。自分を変えるのではなく、自分が動ける条件のほうを整える。

メガネをかけるのは目が弱いからではなく、よく見えたほうが生きやすいからです。仕組みに頼るのも、それと同じこと。弱さの証明ではなく、ただの拡張です。

あなたの「どうせ無理」も、省エネ装置かもしれない

もし、あなたも何かを始めようとするたびに「どうせ自分には無理」が先に来るなら、それは、あなたが怠けているからではありません。課題が大きすぎて、脳が処理の重さから先回りで降参している——ただ、それだけかもしれない。

だとしたら、責めるべきは自分ではなく、課題の「大きさ」のほうです。これ以上割れないくらい小さくして、進んだ分を目に見える形で残す。それだけで、ずっと動かなかった一歩が、少し軽くなるかもしれません。

まとめ

  • 「どうせ無理」という自己否定は、怠けではなく、脳が処理コストから自分を守る省エネ反応だった(課題を小さく割ると、脳の処理の複雑さは実際に下がる:Maisto et al., 2015)
  • 完璧主義(0か100か/白黒思考)が、その装置をさらに強くする。内なる敵は「課題が大きく・輪郭がぼやけた」瞬間に肥大する
  • 処方箋は2つ。①課題をこれ以上割れないくらい小さくする ②小さな前進を目に見える形で残す(進捗を物理的に記録・可視化すると達成率が上がる:Harkin et al., 2016)
  • 鍵は「意志」ではなく「仕組み」。自分を変えるのではなく、動ける条件を整える

今のあなたのまま、最初のひとつ——バカバカしいくらい小さな一歩から始めれば、それでいい。

続編予告(③アウトプット外化):小さく動けるようになった次の関門は、「気分が軽くなった」「学びになった」で終わらせず、前進を外に出すこと。なぜ内面処理だけだと”映画予告編”で終わるのか——は、次の記事で。

参考文献

  • Maisto, D., Donnarumma, F., & Pezzulo, G. (2015). Divide et impera: subgoaling reduces the complexity of probabilistic inference and problem solving. Journal of the Royal Society Interface, 12(104), 20141335. https://doi.org/10.1098/rsif.2014.1335(全文:PMC4345499
  • Harkin, B., Webb, T. L., Chang, B. P. I., Prestwich, A., Conner, M., Kellar, I., Benn, Y., & Sheeran, P. (2016). Does monitoring goal progress promote goal attainment? A meta-analysis of the experimental evidence. Psychological Bulletin, 142(2), 198–229. https://doi.org/10.1037/bul0000025(全文:White Rose OA

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この記事を書いた人

アラフフィフ世代で二児の父。
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