失敗から学ぼうとするほど、自分が壊れていった

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「次こそは」と思うたびに、少しずつ壊れていった

夜、ベッドに入ってから頭が動き始めます。

「あのとき、なんであんな動き方をしたんだろう」「もっと早く確認していれば」「あの言い方はまずかったのかもしれない」——。

のりさんには、こういう夜があります。職場でうまくいかないことがあった日の夜です。
眠ろうとしても、思考がぐるぐると回り続ける。

「失敗から学ぶ」というのは、大切なことだと思っていました。
だからこそ、真剣に考えようとしていました。次こそは同じことを繰り返さないために。次こそはもっとうまくやれるように。

でも、あるときから気づいたことがあります。

何かが、削れていっている、と。

自信なのか、気力なのか、うまく言えないのですが——分析を繰り返すたびに、何かが少しずつ減っていく感覚がありました。ASDのグレーゾーンとして、これまで何度も自分のコミュニケーションや行動のやり方を振り返ってきました。

でも振り返れば振り返るほど、前に進む力が減っていく気がしていた。

「失敗から学ぼうとすること」が、逆効果になっているのではないか?
——そう疑い始めたのは、ずっと後のことです。

「失敗から学ぶ」が正しいとは限らない

「失敗は成功のもと」——誰もが一度は聞いたことのある言葉です。

でも、この言葉には、大切な前提が抜けています。
それは、「学べる失敗だったのか?」という問いです。

実は、「失敗」と「間違い」は、本来まったく別のものです。

  • 間違い(mistake): 自分の判断・行動に問題があり、次から変えれば防げるもの
  • 失敗(failure): 自分の行動は適切だったが、外部要因や偶然によって望ましくない結果になったもの

「確認しないで進めてしまった」は、間違いです。次から確認すれば防げる可能性があります。

でも「準備は十分だったのに、相手の都合で話が流れた」「体調が悪い日に無理をしたら判断を誤った」——これらは、失敗です。自分の行動を変えても、結果が変わっていたかどうかはわからない。

にもかかわらず、多くの人は「うまくいかなかった出来事」のすべてを「学ぶべきこと」として自分に向けてしまいます。のりさんも長い間、そうしていました。

今日のこれは、failure? mistake? 判断フローチャート

ASDの脳が「失敗の記憶」を手放せない理由

ASDの脳が失敗の記憶を手放せない理由のイラスト

ASDや発達特性のある人にとって、この「全部から学ぼうとする」パターンは、特に強まりやすいことが研究から示されています。

2021年に発表された研究では、自閉スペクトラム症の成人を対象に、反芻(rumination)のパターンを詳しく調べました。その結果、ASDのある成人の反芻の中で最も中心的だったのは、「なぜ自分はできないのか」「自分の欠点やミスへの後悔」に関する自己批判的な思考でした。
そしてこの自己批判的な反芻が、抑うつや罪悪感を直接引き起こしていると報告されています(Williams et al., 2021)

さらに、なぜASDではこの反芻が起きやすいのかを、脳ネットワークの観点から示した研究もあります。
ASDでは特定の情報への注意が固定されやすい特性——認知的柔軟性の低さ——が、ネガティブな思考を「切り替えにくく」する神経的なパターンと関係していると指摘されています(Burrows et al., 2017)

「失敗した夜に、何時間も同じことを頭の中で繰り返してしまう」——これは、意志の弱さでも性格の問題でもありません。脳の特性として、そうなりやすい仕組みがあるのです。そのことを知るだけで、のりさんは少しほっとしました。

感情のパターンをモニタリングする視点については、こちらの記事↓でも詳しく書いています。

反芻ループが止まらない理由:ASDの特性・反芻ループ・区別する視点

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「失敗」と「間違い」——2つを区別するだけで楽になる

失敗と間違いを区別するイラスト

この区別を知ってから、のりさんはある夜、これまでの「反省の記憶」をひとつひとつ確かめてみました。

「あのとき、自分にできることはあったか?」という問いを立てながら。

——相手の都合で話が流れた。→ failure。自分の行動を変えても、結果は変わらなかった可能性が高い。
——確認しないまま進めた。→ mistake。「次は確認する」という1点だけ、学べる。
——体調が悪い日に無理をした。→ failure。コンディションの問題だった。
——同じことを3度繰り返した。→ mistake。なぜ繰り返したかを考える価値がある。

こうして並べてみると、「学ぶべきだったもの」は想像より少なく、「ただ起きてしまったこと」のほうが多いとわかりました。

失敗と間違いを区別しないまま「全部から学ぼう」としていたから、どれだけ分析しても終わりがなかったのです。

見分け方は、問いひとつ

「自分の判断・行動を変えれば、防げた可能性があるか?」——この問いだけで区別できます。

答え分類対応
Yes(防げた可能性がある)間違い(mistake)改善できる1点だけ考える
No(外部要因・偶然だった)失敗(failure)手放す

シンプルですが、のりさんはこの問いを持つだけで、反省の夜の長さがかなり変わりました。

「間違い」からだけ学ぶ——消耗しない3つのポイント

消耗しない学び方のイラスト

実際にどう動けばいいか。のりさんが試して楽になったやり方をご紹介します。

STEP
出来事を短く書き出す

「うまくいかなかった出来事」をひと言で書きます。詳細な分析はまだしません。「◯◯がうまくいかなかった」それだけです。頭の外に出すことで、ループが少し静まります。

STEP
「自分の行動・判断に問題があったか」だけを問う

「相手はなぜ〜」「あの状況では〜」という外部の分析はしません。「自分の行動・判断の中に、次から変えられる点はあったか」——この1点だけを問います。

STEP
答えによって分岐して、今日の分析を終わらせる
  • 「あった(間違い)」なら → その1点だけをメモして終わりにします
  • 「なかった(失敗)」なら → 「これは failure だった」と記録して、手放します

このやり方で大切なのは、「1点で終わりにする」ことです。改善点が見つかったとしても、芋づる式に広げない。見つかった1点を次に活かす——それで十分です。

2021年の研究では、自閉スペクトラム症の成人において、自己批判ではなく自己への思いやり(セルフ・コンパッション)を育てることが、不安や抑うつの改善につながると提言されています(Cai & Brown, 2021)。「間違いからは学び、失敗は手放す」という考え方は、この自己への思いやりの実践に通じるものです。

自分に頼りすぎてきた話については、こちらの記事でも書いています。

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まとめ:分析しない夜があっていい

「失敗から学ぶ」は、決して間違いではありません。

ただ、「すべての失敗から学ばなければいけない」というのは、別の話です。

ASDや完璧主義の傾向がある人にとって、「全部から学ぼうとする」ことは反芻を止まりにくくし、消耗を積み重ねます。

「間違い(mistake)」——自分の行動・判断に問題があったケース——だけに向き合う。それ以外の「失敗(failure)」は、手放す。その区別があるだけで、夜の長さが変わります。

分析しなかった夜があっていい。うまくいかなかったけれど、それが「自分の間違い」ではなかった日は、何も考えずに眠っていい。

まず「今日のこれは、mistake か failure か」——その問いかけを、一度だけ試してみてください。

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参考文献

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この記事を書いた人

アラフフィフ世代で二児の父。
日常の様々なことを書いています。
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